引き続きヤスの話です。

一幕~まだ語ります。

小夏ちゃんはいつヤスに惚れたか?
は重要なファクターだと思う。
のちのち生まれた子(もちろん父親は銀ちゃん)に
「あんたのお父ちゃんよ」
と教えるのはヤスの遺影だ。
「立派な役者だったの」ってそれは誇りに満ちた綺麗な笑顔で。
あの瞬間、ふわーっとフラッシュバックするのが「二十四の瞳」のポスターを見せる一幕。

特大四畳半アパート(どこの世界にあんな広い四畳半が存在する)に連れてこられ
「あばよ!幸せに暮らしな」
銀ちゃんにポイ!と「置いて」しまわれる小夏ちゃん。
(ちゃんと「引き受け手」が用意されているので「置き去り」よりこっちからこっちへ「置かれた」感強しという意味)

もうボロボロです。体調悪い上にお腹の子のパパに別の男をあてがわれる のですから。

女への、人間としての、最低な仕打ち。

怒り狂い泣き叫んでもいいのに小夏ちゃんがそうしないのは銀ちゃんの宇宙人度に反抗する気も失せたのか。

追い討ちをかけるように。
ぐったりして顔を上げるとそこにはうだつの上がらない男がいる。
おまけに「これ(婚姻届)どうします?」 と来た!


アンタにはプライドってもんがないのっ?!
小夏ちゃんならずともヤスのどうしようもなさにキーっ!
頭の血管が切れそうになってもおかしくない迷シーンですが。

ヤスの笑顔がふわ~っ 大きく舞い降りてくる。

銀ちゃんの宇宙人技に毒気を抜かれて床に座り込んだ小夏ちゃんの上にヤスの笑顔が大きく 降りそそぐ。

そして貼ってあった仁侠映画のポスターをベリベリっとはがします。
「見てください、これ。」

現れたのは水原小夏主演映画「二十四の瞳」のポスター。
モノクロの淡いデッサン画のような柔らかいタッチで描かれているのは 大石先生役の小夏ちゃん。
柔らかい笑顔で手を振る姿はモノクロなのにそこだけぱっと光があたっている宗教画のような美しさです。

さらにヤスは売れっ子だった頃の小夏がどれほど瑞々しくて美しかったか をつっかえつっかえ言葉にします。
見上げる形で聞き入る小夏。

恥ずかしい話、わたしここでハンカチ用意です。マイ・ハンカチポイントのひとつです。
同じように思われる方もいらっしゃるんじゃないかなあ。

小夏ならずともヤスの大きさにくるまれて泣きたくなるような、
何か自分で「気づかないふり」をしていたことに気づかされて、同時に大きな毛布かタオルで覆われたようなそんな気持ちに陥る。


「ねえ○○さん(自分の名前を入れましょう)、泣かないでくださいよ、ほらこれ見て!」って無理やり顔を上げさせられたらそこにとびきり綺麗な顔の自分が描いてあったってことでしょう……。
女ならここ、崩れますね。

不幸のどん底にあって自分も人も信じられないそんな女が
「一番綺麗なものは貴女だ」って教えられるなんて。

「大石先生、大好きでした!」ってもう……ヤス。ねえ。アンタって。

抵抗できないよ、それ。

毒気を抜かれる瞬間。
女には到底できない男だからこそできる大きな愛での包みこみ。
脚本演出の勝利なのかマグマみつるのなせる業か。

石田演出は「あ~もう!」何度となくそっぽを向きたくなるんですが
あのシーンでは悔しいけど認めてやろう という気になる。


そして何より しょぼい姿で宇宙規模の大きさを魅せたみつるくんにはやっぱりマグマがあると思う。

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