どこが好きって

これは涙じゃねえよ…

ド・アップで睨みつける銀ちゃんと胸ぐらを掴まれて

ああ…悪かったよ…

謝る橘だ。

「大部屋を一人殺す気持ちてのはどんなだ?」
橘の「けしかけ」は本心からじゃない。
本当は「負けを認めたくない一心」で絡んだだけだ。
だけなんだけど。

そんなこと
天下の単細胞銀ちゃん に伝わるはずもない。
「額面どおり」に受け取ったからさあ大変。

「てめ、この野郎っ!」
胸ぐらつかんでこれ以上ないっていうぐらい泣きべそ我慢顔 で詰め寄ったんだ、銀ちゃんたら…



「命と引き換え」の階段落ち。
「ヤスを愛する撮影所の人たち」はみんなやめさせたいんだ。


やらせたくなくて仕方がないんだ。

でも誰も止めることができないんだ。

「階段落ち」がこの映画を最高に盛り上げるのを知っているからだ。

知っていて止めないのは薄情だからじゃない。
ヤスと同じ人種だから。
映画が好きなんだ。

みんなみんな。

テレビの勢いに押されてどんどん衰退していって、
それでもその世界から離れたくなくて。
映画の存続に体を張りたい気持ちはヤスと同じだ。

橘だって同じだ。

だから橘は銀ちゃんに絡んだ。
そうしないとやっていられないからだ。

「あんな映画馬鹿を部屋子に持ちやがって。」
羨ましくて仕方がない。
妬ましくて仕方がない。

自分の取り巻きたちはそこまでしてくれない。
主役の自分を引き立てるために命を投げ出したりはしない。



銀ちゃんの涙を見たとき、橘は素直に認めた。


俺の負けだ。



あんた天下一の看板俳優だよ。
俺の取り巻きは俺に命をかけてくれたりしない。
すげえよ、銀の字。




銀ちゃんの潤んだ目が愛しかった。
こちら(客席)に向けた橘の背中が愛しかった。



同期でデビューして競いあって憎しみあって褒めあって。
声には出さないけれど褒めあって励ましあって。

そうやって生きてきたんだ。



そんな2人が透けて見えた。



この瞬間の2人が好きだ。

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